なんのために勉強するの?(連載 2/4)


(2)道を選ぶのは子ども自身


心理相談員 みやたあきら


「とにかく頑張れ!」は子どもを不幸にする

勉強は、夢を叶えて幸せに生きるためです。最終的には、「子どもの幸せ」が目的です。

だとすると、「勉強の目的が何か考えたり教えたりする必要なんてあるの? とにかく勉強を頑張らせて、幸せにさせればいいんでしょ」と考える方もおられるかも知れません。

ところが、そうではないのです。勉強そのものが楽しいという子ならいいのですが、そうでない子に「とにかく頑張れ!」と勉強を頑張らせると、子どもは幸せになれません。というより、不幸になってしまうのです。


「生きていたくない」とさえ思うことも

私のところには、多くの相談があります。小学4年生の男の子のケースです。

「学校に行きたくない」と言って家出をしたと、ママから相談がありました。色々な育児本も読んでおられる、教育熱心なママです。「お子さん、なにか言っていましたか?」と聞いたところ、「全部がイヤ。生まれてこんかったら良かった」と言っていたとのことでした。

このママとのメールのやりとりは数回で終わりました。ですからこの子がなぜそんな風に思うようになったのかは、推測するしかないのですが、勉強のプレッシャーが強かったのではないかと感じました。

プレッシャーで勉強するということは、本当は勉強したくないのです。「勉強したくない自分はダメな子」と、自分を否定しながら頑張ります。それに「〇〇で遊びたい」という意欲を押し殺して勉強を続ける毎日に喜びはありません。

「こんな毎日が続くのが生きるということなんだ」と思うと、将来に希望が持てません。生きていたくないとさえ思ってしまいます。これは、不登校やひきこもりになった子の多くが感じていることでもあります。


夢なんて考えられない

そういう子は、進路を考える年ごろになって、「君の夢は?」と聞かれても、夢がないことが多いです。夢とは、「将来したいこと」です。将来になんの希望も持てず、生きていたくないとさえ思っているのですから、夢なんて考えられないのです。

中には、「悲しい、うれしい、好き、きらい」といった感情さえ感じられなくなる場合もあります。プレッシャーの中で自分の気持ちを抑え込み続けたことによる、感情鈍麻の状態です。親から見ても生気がありません。本人も、「生きている実感がない」「自分が誰なのか分からない」という状態です。

「自分の夢のため」という目的意識があってこそ、意欲的に頑張ることができるし、幸せになることができるのです。


親の期待は不幸な結果を招くことが多い

親は子どもの気持ちを尊重して見守る必要があるのですが、実際には、つい手や口を出してしまいます。子どもの気持ちを尊重することをはばむものに、「親の期待」があります。

親は子どもに、いろいろな期待をふくらませます。「あの学校に進んでほしい」「こんな仕事に就いてほしい」……などなど。我が子の幸せを願う親としては自然な気持ちです。ただ、それは親の願望であって、子どもが同じ願望を持っているとは限りません。親の期待を子どもに負わせることは、多くの場合、不幸な結果を招きます。

たとえば、親が開業医をしている場合、「子どもも医者になって病院を継いでほしい」という話はよく聞きます。子どもが、「ぼくもパパのようなお医者さんになりたい!」と思って医学部を目指すのならいいのですが、「医者になるのが当然」と親の期待を強く感じると、不幸な結果を招きます。

もし医学部に進むことができなければ、「自分は親の期待に応えられなかった」と自分を責めます。もし親の期待に応えたとしても、本当は医者になりたくなかったとしたら、喜びの少ない人生を歩むことになります。もし、「ぼくの夢は医者になることではなく、弁護士になること!」と、自分の夢を貫いて弁護士になったとしても、「親の期待を裏切った」という負い目を感じながら生きることになります。


親が考える幸せと子どもの幸せは同じではない

何に喜びを感じるかは、人それぞれです。ということは、親が考える幸せと、子どもの幸せは同じではありません。

もし子どもに何かを期待する気持ちに気づいたら、「~になって欲しい」ではなく、「~になるのも悪くないな」と心の中で言い替えてみてください。そうすれば、子どもに重荷を負わせるような言葉をかける心配は、なくなると思います。

子どもの前には、いろいろな道が分岐しながら広がっています。これから進む道を選ぶのは子ども自身です。親は、ハラハラ、ワクワクしながら、見守ってあげてください。

つづく


心理相談員 みやたあきら プロフィール

広島市在住。 大阪大学 基礎工学部 卒。1977年、地元広島の大手自動車会社に入社。会社員時代に、「モノづくりもビジネスもすべて、人の幸せのため」と気づいて、心理学やカウンセリングを学ぶ。現在は心理相談員として、SNSでの発信や執筆、講演活動、生き辛さを抱える子どもたちや保護者の相談に乗っている。講演は、学校、公民館を始めとし、広島市シニア大学、江戸川区「区民の集い」、浄土宗保護司会(港区 増上寺)など多数。これまでに1万5千人に講演を行い、手紙やメール相談のやりとりは2万7千通を超える。

◆著書『この子はこの子でいい、私はわたしでいい』は、子育ての基本的な考え方と、乳幼児期から自立までの具体的な対応方法を分かりやすく解説。手元に置いて、子育てに迷ったら手にとってもらいたい一冊。Amazonと楽天ブックスで販売中。

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